雑草の勇者たち #1

社会人大学がお届けする特別対談企画「雑草の勇者たち」。この企画では、ゲストの方々の「熱意」や「情熱」に迫ります。第1回目は、社会人大学のテーマ曲を歌うコーラスグループ「Be Choir」リーダー、長谷川雅洋さんです。長谷川さんは銀行にお勤めされながら、音楽表現に挑戦し続ける、異色のアーティストです。

桑名:ライヴ、お疲れ様でした。お客さんも盛り上がっていたし、なによりも長谷川さんをはじめ、メンバーの皆さんもパワフルでしたね。

長谷川:ありがとうございます(笑)。

桑名:長谷川さんは銀行業のかたわら、60人のメンバーを率いるアーティストグループ「Be Choir」のリーダーとして活躍されているけど、正直すごいなと思うんです。僕は20歳の時に起業したんだけど、起業ってある意味、無鉄砲さが通用するみたいなところがあるんですよ。例えば、すでに起業するための資金をある程度持っていたり、資金が無くても失うものがない覚悟で挑む……だったり。でも、長谷川さんは銀行というお堅いイメージの業界で、仕事をきちんとこなしながら、日々のトレーニング、休日などをグループ活動に充て、ライヴではお客様に最高のパフォーマンスを提供する……本物の「雑草の勇者」だと思います(笑)。

長谷川:好きでやっていることなんですけど、そう言っていただけると嬉しいです。

桑名:そもそも、音楽活動をしていくことになるキッカケは?

長谷川:小学生から高校生まではずっと野球をやっていたんです。ピッチャーだったんですけど、甲子園も真剣に目指していたんですよね。高校を卒業して1年間、浪人生活をして大学に入学して、ゴスペルミュージックのサークルに入ったのがキッカケですかね。僕は千葉の南房総の生まれで、すごく田舎なんです(笑)。そんな田舎者の僕から見ると、サークルには今までに見たこともないような人がたくさんいて……。例えば、日本語と英語が入り混じった会話で、プライバシーとか関係なくフランクに僕の領域にガンガン入ってくるような人や、スピーカー付きのリュックを背負ってズンズン音を流しながら登校してくる人だったり。そういう人達とのコミュニケーションを通じていく中で、僕は法学部だったんですけど、もともと理想としていた司法試験に合格して、将来は弁護士としてやっていこうみたいなものが、すぐに崩壊しました(笑)。

桑名:そうだったんですね(笑)。大学でゴスペルと出会って、そこから「Be Choir」結成までの経緯は?

長谷川:ゴスペルの魂に響くみたいなところにやられて、本物のゴスペルを求めて約1年間、大学を休学して渡米したんです。現地のゴスペルグループの仲間に入れてもらい、日々、教会などで歌っていました。帰国してから、たまたま、JUJUさんや東方神起さんなどの有名アーティストのバックコーラスをお手伝いさせていただく機会もあって、そんな時に当時、僕の音楽活動をサポートしていただいていた方から「どうやってデビューする?」みたいな話があがったんです。それが大学4年生の時でした。僕の中では個人というよりも、ゴスペルの大勢の人で歌う迫力っていうのがバックグラウンドにあったので、どうせなら日本で一番メンバーが多いであろう、100人のコーラスグループを作ろうってことで、大学のサークルを中心とした仲間で「Be Choir」を結成しました。かれこれ、今年の10月で結成8年目に入りましたね。

桑名:長谷川さんは今、銀行にお勤めされているけど、就職活動はしたんですか?

長谷川:しました。金融機関4社だけ受けました。音楽だけをやっていきたかったんですけど、母親に猛反対をくらいまして(笑)。自分の人格形成には両親がすごく寄与していると思うんですけど、父親は「どんどん突き進め!」みたいなどちらかと言うと情で動く人で、母親は真逆。石橋を叩いても渡らないくらいの保守的な人なんです。

桑名:金融機関を選んだのは、長谷川さんの意志? それともお母さまの意向?

長谷川:僕の意志ではあるんですけど、母親も銀行員だったんです。そもそも、休学して渡米していたり、音楽ばっかりだったので、就職活動のルール的なものや、世の中の業態みたいなものが全く分からなくて……。ただ、銀行員だけは、子供の頃からある程度、現実的なことがイメージできていたんです。あとは、いろいろな人に会える職業かなという部分に惹かれたところもありますね。例えば、桑名さんのような社長さんや、誰でも知っているような企業の方、また、今僕は海外事業を担当しているんですけど、様々な属性の人、人種の人に会える。そういう人と仲良くなれたら面白いなと漠然と思っていました。

桑名:大学に入学してから音楽活動をしていく中で、様々な人とのコミュニケーションを通して、そのコミュニケーションの仕方や多様性を自然と学んでいたんですね。「Be Choir」も、長谷川さんを含め、メンバーそれぞれが本業としての仕事をしながら音楽活動をされていますが、辞めずに続けてこられた秘訣みたいなものってあるんですか?

長谷川:なんとなくやってこられたっていうのが正直なところなんですけど、辞めようかなと思ったことも何度もあります。グループのことに限らず、悩んだりすることはもちろんあって、そういう時には「動機ってなんだっただろう」ってことを思い返すようにしていますね。「Be Choir」の場合だと、歌を通じて感動したり、そういった気持ちを仲間や聴いていただく方と共有したいなという想いが結成の動機にあったりするんです。だからこそ、音楽のことやメンバーとのコミュニケーションで悩んだり、嫌だなと思うときは、過剰にトレーニングをしたり、ほかのことを考える余地が無いくらいに歌いまくったりします。そして疲れて寝る(笑)! そうすると次の日には、前向きな気持ちになっていたり、新しいアイディアが浮かんだり……今までそれなりに仲間と面白いことをやってきたという気持ちはあるので、辞めたいなと思ってもとりあえず続けておく。なんかメチャクチャですけど(笑)。

桑名:それはすごく理解できます。例えば女の子って、悩むと部屋の隅やベッドの上で体育座りして、部屋は真っ暗みたいなことがあるじゃないですか。動かない戦略みたいな……動かないと何が起きるかっていうと、悩んでいることの全てにスポットを当てていると思うんです。そうすると悩みがスパイラル現象を起こして、さらに悩みが大きくなり脳内がいっぱいになっちゃう……だから、悩み始めたら動くことってすごくいいですよね。会社のスタッフにもそういった話をよくしますよ。

長谷川:でも、よく悩むんですよ(笑)。グループのことで言うと、このメンバーにはどういう感じで話をしたら自分の気持ちが伝わるか? だったり。例えば、今のあなたは、僕の知っている好きなあなたではないみたいなことを伝えるって、結構な勇気がいるじゃないですか。ある意味、愛の告白に近いみたいな。一応、リーダーなんで、新しいことへのチャレンジや取組みには、僕自身が核弾頭になって率先してやるようにはしているつもりなんですけど、なんせ不器用なタイプの人間なので(笑)。うまく言えないですけど、努力しているところを馬鹿なりに見せる。長谷川は馬鹿だよなと思われても、あいつはここだけは譲らないと思ってもらえるように……。グループのメンバーは、多分みんな僕のことを馬鹿だと思っています。実際に言われますし(笑)。でも、そうするとメンバーが自分の足りないところをフォローしてくれたり……もしかしたら、これもグループを辞めずにやってこれた秘訣かもしれませんね(笑)。

桑名:でも、それってすごくいいことじゃないですか。悩む時間も自分をさらけ出すことも、あとダメだと思うことを伝える勇気っていうのもすごく大事ですよね。ちょっと話が飛躍するかもしれないけど、今世の中で、おかしな、理解が出来ない事件がたくさん起こっているじゃないですか。ビジネスや政治の世界での不正なんかもそうなんだけど、何かが起こる前には違和感みたいなものがあって、それを察知した人が「ダメなものはダメ」と言えれば、事件やトラブルが大きくならずに済むことが多々あると思うんです。でも、人の傷には触らずに見て見ぬ振りをしてしまう。そういうのが社会をダメにしているなと感じることもあるんです。

長谷川:同感ですね。

桑名:長谷川さんが身を置いている銀行業って、ものすごくルールがギチギチで厳しい世界をイメージするんですけど、長谷川さんから見ていかがですか?

長谷川:銀行業だけではなく、全てに当てはまると思いますが、コンプライアンス※1に違反することはもってのほかで、それを犯してしまったら、会社からダメというレッテルを貼られ、望み通りの出世は出来ないし、下手したら懲戒処分です。あくまでルールの中で個人として、チームとして成果を積み上げていくという世界です。

桑名:きっと「Be Choir」は、結成時の理念やメンバーそれぞれの想いが、軸やコンプライアンス的なものになっていて、それを共有できているからこそ、あのライヴパフォーマンスが発揮できるんだなと思いました。あと、軸から少しだけはみ出る部分って、その人の味や個性だと思うんですけど、軸がないとただのはみ出し者になっちゃう……。ちなみに、長谷川さんの社内でのポジションはどうなんですか?

長谷川:お陰様で第一選抜と呼ばれている出世可能なグループには属しています(笑)。

桑名:それはよかったです(笑)!

★ここからがWEB限定の対談内容です★
桑名:話は変わり、これからの長谷川さんについて教えてもらいたいんですが、社会人として、またアーティストして、これからどういう気持ちでやっていこうみたいなことってありますか?

長谷川:自分自身、臆病な部分もありますし、今年の8月に子供が産まれたこともあって、安定的なものを求めなくてはと考えたりする部分もあります。理想を言えば、周りの方々の期待に応えながら自分が楽しいと思えることが出来るっていうのが一番ですよね。そう甘くはないのも分かってはいるんですが……音楽の部分で言えば、今よりももっと多くの人に求められたいという気持ちはあります。常に思っていることでもあるんですが、そういった気持ちが通じて、良い形になっていくっていうことを経験しているので。例えば、今日(2017年9月30日)のライヴで初めて披露させていただいた『天涯(そらのはて)』というBe Choirの新曲があるんですが、この曲は、作詞が売野雅勇※2さん、作曲がデヴィッド・マシューズ※3さんという日本の歌謡界と世界のジャズシーンを代表するお二人に作っていただいた曲なんです。歌い手が僕らなんかでいいのか? って思うくらい、本当にあり得ないことで。だけど、先ほどもお話した通り、グループで試行錯誤しながらも、常に今まで以上にという気持ちでやってきたことが良いご縁に繋がるんだなと実感しています。あとは仕事にしても、音楽にしても、大きく言えば人生観としても、所詮、自分は田舎者だし、両親が世間的に突出した人間でもないので。だから変にイキがったりすることはせずに、愚直というか不器用な部分を強みにしていこうと思っています(笑)。

桑名:今日、長谷川さんのお話を聞いて改めて、何気ない日常が大事なんだってことを認識しました。そのなかでいかにモチベーションを維持していくため、今まで以上にしていくためにどうしていくのか。イベントやお祭りとかで燃えるのが大好きな人は多いと思うんですが、何気ない日常のなかでやっていくべきことや、そのなかで出会う人達、例えば、家族、友人だったりを大切にしていくというような基本形は崩してはいけないですよね……。。

長谷川:そうですね、それが何かをするときの準備にもなっているし……。

桑名:今日はライブ後でお疲れのところ、どうもありがとうございました! いろいろなお話が出来て、嬉しかったです。

※1企業が法律や企業倫理を遵守すること。

※2売野雅勇氏
上智大学文学部英文科卒業。コピーライター、ファッション誌編集長を経て、1981年シャネルズに『星屑のダンスホール』などを書き作詞家として活動を始める。1982年、中森明菜の『少女A』のヒットにより作詞活動に専念。以降チェッカーズを始め近藤真彦、河合奈保子,シブがき隊など数多くの作品により80年代アイドルブームの一翼を担う。90年代からは坂本龍一、矢沢永吉からGEISHA GIRLS、SMAP、森進一まで幅広く作品を提供。
郷ひろみ『2億4千万の瞳』、ラッツ&スター『め組の人』チェッカーズ『涙のリクエスト』、稲垣潤一『夏のクラクション』、荻野目洋子『六本木純情派』、矢沢永吉『SOMEBODY’S NIGHT』、GEISHA GIRLS『少年』、坂本龍一『美貌の青空』中谷美紀『砂の果実』などヒット曲多数。

※3デヴィッド・マシューズ氏
1942年ケンタッキー州出身。ジャズ・バンド「マンハッタン・ジャズ・クインテット」リーダー。1970年~73年ジェームス・ブラウン・バンドでのアレンジャーの仕事が音楽活動の第一歩となり、その後、アレンジャーとしてジョージ・ベンソンの『グッド・キング・バッド』でグラミー賞を獲得後、フランク・シナトラ、ポール・マッカートニー、ポール・サイモン、ビリー・ジョエル等のアレンジを担当し、グラミー賞、プラチナ・ディスクなど多数受賞。84年結成の「マンハッタン・ジャズ・クインテット」の大ヒットを経て、彼の地位は不動のものとなる。大の親日家で、”熱燗”と”あじのたたき”が大好物。愛称は”マーチャン”。

Be Choirが歌う「雑草の勇者」(一般社団法人社会人大学テーマ曲)はこちらで公開中!

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