Touch food VOL.10 練馬大根

旬の食材に触れるTouch food。第10回目は東京のブランド野菜として注目を集めている「江戸東京野菜」の代表格「練馬大根」を紹介します。

江戸東京野菜とは?
江戸東京野菜は、江戸期から始まる東京の野菜文化を継承するとともに、種苗(シュビョウ)の大半が自給または、近隣の種苗商により確保されていた昭和40年頃までの在来種、または在来の栽培法等に由来する野菜のことを総称した呼び方です。江戸東京野菜に登録される品目は、48品目(2017年12月時点)となります。
<参考:JA東京中央会 http://www.tokyo-ja.or.jp/edo/edoyasai_index.html>

練馬大根の歴史
「大根の練馬か」、「練馬の大根か」と言われるほどに名をはせた練馬大根は、江戸時代の元禄期(1688年~1704年)頃には盛んに栽培されていたと言われています。練馬の土質は関東ローム層の上にできた黒ボク土。箱根や富士山の火山灰が長い年月をかけて風化した赤土(ローム)の上に、植物が腐植して堆積した黒ボク土の地層は、根の深く入る野菜(大根、ゴボウ、ニンジンなど)に適した土壌です。また、練馬が江戸に近く、流通しやすかったことが、大根栽培の発展した大きな要因とされています。
人口100万人超えの江戸の需要に応える野菜の供給地として、練馬大根の栽培は発展していきますが、明治の中頃になると東京の市街地が拡大していくのに伴い、練馬大根の生産は一層増大していきます。特に日清戦争、日露戦争時には練馬大根を加工して作られたたくあんが軍隊に納められたことで、その需要が増したと言われています。練馬大根のたくあんは、全国の鉱山や炭鉱、工場や船舶、学校や病院の寄宿舎などに多量に出荷されるようになりました。 
その後、昭和の初め頃まで盛んに栽培され続けますが、昭和8年の大干ばつ※1、幾度のモザイク病※2の大発生により大打撃を受けます。また戦後になると、食生活の洋風化や急激な都市化による農地の減少により、昭和30年頃から栽培が衰退し、練馬大根が出回ることがほとんどなくなってしまいました。
しかし、平成元年から練馬区が「練馬大根育成事業」をスタート。練馬大根の栽培やたくあん漬け加工、収穫体験や練馬大根引っこ抜き競技大会の開催、昔からの種である「伝来種」の保存事業などに取り組んでいます。
※1雨が降らないなどの理由で長期間水不足となり、土壌が乾き、農作物が育たない状況。
※2ウイルス感染による植物の病気。

練馬大根の品種
現在栽培されている練馬大根は、「伝来種」や「伝統種」を改良して作られた白首系の大根です。昔ながらの技術を用いて栽培し種を採取する「伝来種」や、練馬大根の特性を残しつつも病気に強く発芽率が高い、味・育ちともに改良された種などが中心となっています。
また、江戸時代に参勤交代で江戸へ来た大名が、自分の領地へ戻る際に、練馬大根の種子を持ち帰り、各地域でそれぞれ栽培され、練馬大根をルーツとした各地域ごとの特徴ある大根が誕生したと言われています。

▲根野菜に適した土壌で育てられた練馬大根
▲干し大根、たくあんなどに加工されている様子

取材協力:練馬区都市農業課、JA東京中央会、ボンクラージュ

飲食店の声>>> ボンクラージュ店長・野菜ソムリエ 大越喜夫さん

―ボンクラージュのコンセプトでもある「練馬野菜×ビストロ」が生まれたきっかけは?
そもそも練馬に農家さんがあること自体をあまり知らないままお店を出したのですが、たまにいただいた練馬野菜などを使って料理を提供していたんです。また、当時はお店のテーマ自体はなかったのですが、お店の所在地でもある練馬を盛り上げるために何かしたいというのはあって。地元の人たちに、気軽に来てもらえるようにするにはどうしようと考えたときに、たまに提供していた練馬野菜をすごく喜んで食べているお客さんの顔を思い出したんです。やっぱり地元で採れた野菜を食べるのは、嬉しいことなのかと思い、練馬野菜に目をつけました。

―練馬野菜の特徴は?
練馬は結構寒暖差が激しい地域で、夏には高気温を記録したり、冬は都内でも寒い方だったり……。僕はこの寒暖差こそが、野菜が美味しく育つ秘訣だと思っています。野菜がこの環境にストレスを感じて、そのなかで成長するのは甘みに繋がるんですね。キツい環境のなかで育つことが、美味しい野菜に繋がっていると思います。
―練馬大根はどのように提供されていますか?
サラダに入れたりいろいろな料理で試してみたのですが、やっぱり練馬大根は水分量が少ないので、干してたくあんや漬物にするのが一番美味しかったです。練馬大根を使った自家製のたくあんやオイキムチなどを作ってビストロ風にアレンジしたものを、お客様にサービスで提供したりもしています。
―練馬野菜に対する今後の展望は?
練馬野菜は東京を代表する野菜の一つだと思うので、まずは東京中の人に練馬野菜の美味しさをもっと広めていきたいです。やっぱり地方の野菜が美味しいと思っている人も多いと思うのですが、練馬みたいな都心部でも新鮮で美味しい野菜が味わえるということを知ってもらいたいですね。

[ボンクラージュ] https://www.boncourage.jp/

YTJPは一般社団法人エコロジー・カフェと共に食育・環境問題に取り組む高校生を応援します。
一般社団法人 エコロジー・カフェは、絶滅の危機にある野生生物の保護や消滅の危機にある生態系の保全などを適して地域社会に寄与することを目的としています。
http://ecology-cafe.or.jp/