【インタビュー】Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあき

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第4回目は、アーティストマネジメント会社を経営しながら、介護福祉士、絵本作家として活動の場を広げ、トリプルワークを実現させているないとうさんに迫ります。
Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあき

―仕事内容を教えてください。
本業は仲間と2人で設立したアーティストマネジメント会社の経営で、今は新人のアーティスト3名のマネジメント業務とそれに伴う音源制作などを行っています。専属契約するとアーティストに関わる全てのことをします。副業では介護福祉士として、今は認知症の方が共同生活をする施設で働いています。そこでは食事や入浴、排泄など、利用者の方の見守りや介助をする仕事をしています。絵本作家としての活動は今回が初めてなのですが、介護福祉士の仕事をしていく中で自分が気づいたことを基に伝えたい物語を作って。その物語の原稿に対して、絵を描いてもらった感じです。そこからいろいろな方の意見を参考にブラッシュアップをして、それを作品に反映するという作業を半年間続けて形になったのが、『おもいでメガネ』という絵本になります。

―介護福祉士を始めた理由を教えてください。

5年前くらいにアーティストマネジメント会社の大きなプロジェクトが終わって時間ができたんです。その時に全く違う業界の仕事をしたいという想いになり、自分の興味がある分野で副業を始めようと思いました。そんな時、認知症の人が入る“グループホーム”という施設がオープンすることを知ったんです。もともと自分がおばあちゃん子だったということもあり、オープンスタッフとしてその施設に入りました。そこからは介護士として仕事をしながら、2年前くらいに介護福祉士という国家資格を取った感じです。介護の仕事を始めた時は、どんな世界が待っているんだろうという楽しみが大きかったです。仕事仲間も、今までの音楽業界とは全く違うタイプの人たちばかりだったし、自分の世界や視野が広がることが嬉しかったですね。

―ご自身の周りに認知症の方はいらっしゃいましたか?

いませんでした。研修では認知症の方に対する実習があって、なんとなくのイメージはしていたのですが、やっぱり実際に接してみないとわからないんですよね。実際に認知症の方に会った時、研修で習ったそのままの症状だったんですけど、研修で教わった言葉で返したところで、反応はそれぞれなのでどうにもならないことも多くて。認知症の方と接し始めた頃は、困ったことも失敗したこともたくさんあったのですが、接していくうちに信頼関係が生まれてきて、自分がその利用者さんのことをどんどん好きになっていくんです。そうすると、教科書以上の対応ができるということがわかったので、楽しくなっていきました。

―認知症の方と接する時に心がけていることはありますか?

介護の基本として“傾聴、受容、共感的理解”という言葉があって。“傾聴”というのは、相手の話に、注意深く真摯に耳を傾けること。“受容”というのは、肯定も否定もせず、評価も加えずにあるがまま相手のことを受け入れること。“共感的理解”というのは、価値観の違う相手の立場に立って、相手を理解しようとすることなんですけど。利用者さんが思い描くように、この“傾聴・受容・共感的理解”というのを突き詰めながらコミュニケーションを取りたいと思っています。基本的に、認知症の介護というのは、こっちが相手を好きになってしまえば勝ちみたいなところがあって。好きになってしまえば、何を言われても“そうだね”って受け入れることができるんですよね。利用者さんもいろいろな方がいるので、僕には心を開かないけど、別のスタッフには心を開いたり、逆に別のスタッフには心を開かないけど、僕には心を開いたり。誰にも心を開ける人ももちろんいますし。だからすごく人間らしいんですよね。性格の良さも悪さも丸出しだから、見ていて楽しいです(笑)。

―利用者さん同士の交流も頻繁にあるのですか?

もちろんあります。僕が今働いている施設には9人利用者さんがいらっしゃるんですけど、その9人の中でも社会が出来上がるので、一人一人が“人に見られている”という意識を持って生活されていますね。だから結構背筋がピンと伸びるというか、しゃんとされています。9人の中ではそれぞれに役割ができて、“テーブルを拭く仕事だけは私がやるから、絶対に他の人には譲らない”とか、“食器を洗うのは私の仕事”というようなことを自分の生きがいにしてやられているので、すごく良いことだと思うんです。こういったことが、認知症の進行を遅らせてくれることだったりするんですよね。

―絵本『おもいでメガネ』を制作された経緯を教えてください。

介護の仕事をしていく中で、僕にとってすごく愛すべき利用者さんができたんです。おばあちゃんだったんですけど、とにかくいつも怒っていらっしゃって。ある時から僕はその人が怒る言葉の裏側を知りたくなって、それを追求した時に、ご家族との昔の思い出が発言や行動に出てきているというのが分かったんです。そういった僕の経験が、誰かの役に立つのではないかという想いから『おもいでメガネ』の物語を綴ってみようと思って制作しました。症状の多くは見当識障害などの症状で、時間や場所、季節や人とかが分からなくなってきて、怒っている相手が息子に見えてしまったり、昔の時間軸と今の時間軸がクロスオーバーしてしまう感じなんですね。介護の中では“共感的理解”という言葉があって、他人である自分が価値観の違う相手とその世界を、相手の立場になって理解しようとする態度のことなんですけど、“共感的理解”のスタンスでおばあちゃんと接していると、常におばあちゃんの世界に連れて行ってもらえるトリップみたいなことが僕の中で起きるんです。その現象が自分の中で起きるようになってから、さらにおばあちゃんと接することが楽しくなったし、そういった経験が今回の『おもいでメガネ』の物語に繋がりました。

―絵本を通じて伝えたいことは何ですか?

認知症の方の発言や行動が理解される世の中になってほしいと思っています。あとは認知症の方がいらっしゃるご家族がこの『おもいでメガネ』を読んだ時に少しでも気持ちが楽になったり、“認知症の方にはこんな風に見えているんだな”ということが分かればいいですね。また、認知症の介護という仕事に少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあき【傾聴、受容、共感的理解】けいちょう、じゅよう、きょうかんてきりかい
相手の話に注意深く耳を傾ける“傾聴”、否定も肯定もせず、評価を加えずに受け入れる“受容”、価値観の違う相手の立場に立って理解しようとする態度“共感的理解”。介護の基本となる言葉。

Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあきWorker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあき手袋とウクレレ
介助には欠かせない手袋と、レクリエーションで使用されるウクレレ。皆で歌を歌うなどする音楽のレクリエーションは、脳の活性化や心身に安定をもたらすそうです。

Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあきないとうさんが執筆された絵本
『おもいでメガネ』

Worker’s file VOL.4 絵本作家(介護福祉士、アーティストマネジメント会社経営)ないとう ともあき
¥1,500(+tax)
7月10日(水)より
順次発売開始

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