【インタビュー】雅楽師 東儀秀樹「雅楽は耳で聴くというよりも、細胞が鼓動して感じる音楽」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。今回は奈良時代から約1300年間、雅楽を世襲してきた楽家の東儀秀樹さん。雅楽師、そして音楽家として、日本の伝統文化を伝承する東儀さんが思う“音楽の魅力”に迫ります。

【インタビュー】雅楽師 東儀秀樹「雅楽は耳で聴くというよりも、細胞が鼓動して感じる音楽」

東儀秀樹(とうぎ ひでき)
東京都出身。高校卒業後、宮内庁式部職楽部 楽生科で雅楽を学び、1986年に雅楽師となる。宮中儀式や皇居において行われる雅楽演奏会などに出演する他、海外での公演にも参加、日本の伝統文化の紹介と国際親善の役割の一翼を担う。その一方で、舞台や映画の音楽も数多く担当、雅楽と他ジャンルの音楽とのコラボや創作にも情熱を傾け、映画やテレビ、CMにも多数出演。皇學館大学特別招聘教授をはじめ、その他大学において客員教授も務める。

 

◆雅楽は耳で聴くというよりも、細胞が鼓動して感じる音楽

仕事内容を教えてください。

主軸としては雅楽師として仕事をしています。雅楽というのは日本の古典音楽の中でも最も古い、約1300年前から続いている宮中儀式や神社・仏閣の音楽です。私はその雅楽を伝承する東儀家の者として雅楽師をやっているのですが、古典音楽だけではなく、バンドやオーケストラと一緒に演奏をしたり、作曲活動をしたり、メディアに出演したりと、音楽に関わる幅広い活動をしています。音楽作品を作る際は、雅楽だけではなく、ピアノやギター、ドラム、ベースなどの楽器を演奏することもあります。さらに雅楽の楽器を使ってロックやジャズなどの西洋音楽を演奏することもあったり。音楽のジャンルにこだわるという意識はあまりないですね。

 

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

一般的に雅楽師は、小さい頃から雅楽の教育を受けて育てられていくのですが、私の場合は母方の家系が東儀家で、父は商社マンでした。その父の仕事の関係で海外で暮らす時間が多かったこともあり、雅楽とは離れていた環境だったため、雅楽をやるつもりはなかったですし、両親もやらせるつもりはなかったみたいで。私自身、当時は洋楽ロックが好きで、学生時代はバンドでギターを弾いていて、将来はそのジャンルで生きていこうと思っていましたね。そんな時、親から「そんなに音楽が好きなら雅楽に目を向けてみては?」と言われて、そこから雅楽に興味を持つようになりました。海外にいると、外国人の友人が日本を誤解しているのを目の当たりにして、“本当の日本を伝えたい”という気持ちが育っていて。そういったこともあり、急に“雅楽”というものを提示された時も、日本人が日本文化を背負うということに責任や誇り、やりがいがありそうだなと思いました。そして、東儀家が1300年以上に渡ってそういったことを背負ってきたということに興味が湧き始めたんです。そこで本格的に雅楽に向き合ってみようと思いました。

 

東儀さんが思う雅楽の魅力を教えてください。

雅楽が日本に伝わったのは約1400年前と言われているのですが、雅楽自体はそれ以前から存在していたもので、世界の音楽のルーツでもあり、“世界最古のオーケストラ”とも言われているものなんです。一方、最古の音楽でありながら革新的でもあり、未だに不思議な要素がたくさんあって新鮮なものでもあるんですね。また、雅楽の楽器である笙は“天”を、篳篥は“地”を象徴しており、それらを使って合奏することは“天と地の融合”、“宇宙の音楽”とも言われます。耳で聴くというよりも、細胞が鼓動して感じる音楽なんです。普通にメロディーを聴いて楽しむこととは次元の違う音楽なので、それは雅楽の魅力だと思います。

 

仕事をする中でのやりがいを教えてください。

雅楽以外のジャンルの音楽を作曲することがあるのですが、私自身作曲について勉強したことはなくて。さらにピアノやギターを弾くことがありつつも、そういった楽器を習ったこともないんです。ひらめいたことをそのまま自分の流儀で形にしていく、その過程に音楽としての醍醐味を感じています。そしてそれが作品となって多くの方に届き、受け取った方の喜びを感じられる時には、音楽って本当に楽しいな、音楽家になってよかったなと感じますね。また、言語が違う外国人の方と一緒に演奏する時なんかは、演奏の中で目が合ってニコッと笑いかけてくれたり。音楽を通じたコミュニケーションは本当に素敵なことだなと感じています。

 

仕事をする上で持たれているポリシーはありますか?

演奏者によって奏でられる“生音”って一度出すとすぐに消えてしまう、生まれた瞬間から死んでいくものなんです。絵画とかだと描かれた作品自体は残るので、その素晴らしさをいつまでも味わうことができるのですが、“生音”の場合は消しゴムで消して書き直すということもできない。だからこそ一瞬一瞬を大切に、いつでも心を込めて演奏するようにしています。そうすることで、例え失敗したとしても心は込めたと納得できるんですよね。あと音楽とはそもそも、人を楽しませるものだと思うのですが、それ以前に自分自身が自分の表現を楽しむこと、そしてその表現に自信を持つこと。そうしないと音楽に対する気持ち良さが人には伝わらないと思うんです。自分はあまり好きじゃないという気持ちが少しでもあると、それが人に伝わってしまうので、自分の音楽に自信を持つというのは、心がけています。

 

音楽に取り組む高校生にメッセージをお願いします。

音楽は自由なものなんだということを忘れないでほしいです。これはこうすべきだとか、楽譜に書いてあるからこうしなさいなどといったことがあると思いますが、“自分はこうしたい”と思うなら、それを最優先した方がいいと思います。音楽はそれぞれの個性が目立つべきものなのに、教えられた通りにやっていると個性が出づらくなってしまうんです。だから自分の意思を尊重して、個性を大切にしてほしいです。
あとは、本番を楽しんでワクワク演奏しているイメージを持つことが大事だと思います。どれだけ練習をしても、何が起こるかわからないのが本番です。例えば自分が想像していた客層と違う時や、いきなりお客さんから声をかけられるなど、ちょっとしたことでも調子が合わなくなったり、失敗してしまう人もいるでしょう。だから、練習をするならただひたすら練習するのではなく、本番で何が起きてもいいようなイメージを作っておくと本番を楽しめると思います。音楽って楽しくなければ伝わらないし、演奏する人の人間味が出るものだと思うので、一つも間違いがないように演奏するよりも、“またこの人の音楽を聴きたい”と思ってもらえるような楽しさが伝わることが大事だと思っています。

 

お仕事言葉辞典 雅楽師編

【打ち合わせ】 うちあわせ
雅楽では笙などの管楽器、琵琶などの弦楽器、太鼓などの打楽器が使われるが、リハーサルでは最後に打楽器“打ち物”を合わせることが多く、このことを「打ち合わせ」と言っていたことが由来し、“事前の話し合い”などを意味するようになった。

 

お仕事道具見せてください!

【インタビュー】雅楽師 東儀秀樹「雅楽は耳で聴くというよりも、細胞が鼓動して感じる音楽」

三管楽器 (上から龍笛、篳篥、笙)
雅楽では欠かすことが出来ない3つの楽器。東儀さんはこれらの楽器でロックやジャズなどを演奏。また、他の楽器とコラボするなど、雅楽だけに限らず自由な発想で音楽を楽しんでいます。

 

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