合同会社アーツイノベーター・ジャパンは、2023年8月12日(土)に東京オペラシティコンサートホールにて『手越祐也 シンフォニックコンサート 2023 Vol.2』を開催した。
放送作家/演出家・津曲裕之氏によるライブレポートを公開。
熱狂的なスタンディングオベーション。男性ファンの歓声も目立つ、それも2回!アンコール後に、そしてコンサートを締めくくるオーケストラの演奏に。そんな2回のスタンディングオベーションにふさわしいコンサートだった。涙腺を決壊させかねない(していたかも)圧倒的な音楽の力を改めて感じることができた至福の時間でもあった。至福とはことばの綾ではなくコンサート中に手越祐也が何度も口にした「幸せ」をまさに聴衆も感じる時間だったからだ。
ダブルで日本列島を襲った大型台風の間、奇跡的に雨に降られることもなく迎えた2023年8月12日東京オペラシティコンサートホール。手越祐也、初めてのシンフォニックコンサートからわずか3ヶ月しか経っていないこの日、2度目の、そして1日2回公演のシンフォニックコンサートが実現したのだ。なんだか持ってまわったように大げさな表現と言われるかもしれないけれど、でももう少し盛り上げて書きたいくらいなのが本音でもある。だって、音楽ファンの皆さんなら周知の通り、コロナ禍を経た今、音楽を取り巻く様々な状況から「小屋」=コンサートを開催するホール、ライブハウス等が圧倒的に不足している中で、コンサートのMC中に語られた通り、1回目のシンフォニックコンサート後に全く白紙の状態だったところからわずか3ヶ月で2回目のシンフォニックコンサートを開催できる最良の舞台を押さえ、さらにセットリストの異なる2回公演を実現させたのだから。
と、そんなサイドストーリーは一旦横においてコンサートを紹介すると、1回目、2回目の公演は基本的には同じ曲数でMCも同じ箇所という構成。選曲は両公演共通の曲と変えた曲が半々。レアチケットだったろうから両公演を観た人は少ないと思うけど(ありがたいことに僕は両公演を通して観ることができた)、これは出来れば2公演を通して観ると手越祐也ならではのシンフォニックコンサートの魅力をより体感できる構成だった。1回目、2回目をつなぐのが新曲「SUPER SESSION」。そして今回、オーケストラからの新たな挑戦状として提示された、リズム隊無しでリアレンジされた「プロポーズ」。きっと難所だったに違いないこの曲を2公演ともに配置したその置きどころの違いだったり。3ヶ月前は「CHECKMATEツアー」の最中だったのでセットリストから落ちてしまった曲があったりと、今や2時間弱の公演には収まりきれない楽曲を持つ彼のコンサートなので、この2回公演はある意味長尺スペシャルバージョン。きっとこの両公演の映像が近々公開されると思うので、是非通して体感して欲しいと思う、のでここでは多くを語らないことにしよう。なにより両公演を通じてずっと安定してパワフルで精緻なボーカルに圧倒されるに違いない。
さて、そのブレないボーカル力の秘密と5月、初めてのシンフォニックでのMC「次を考えています」から受けた疑問への答えが実は同じだったことをここで報告しておこうと思う。
公演に先立つ数日前、前回に抱いた疑問を解きたくて都内で行われていたリハーサルにお邪魔した。リハーサル終わりに直接話しを聞くチャンスをもらえた。そこでの会話を全て紹介することは今回は無理だけど、「次を」と彼がいえた理由はあっさりと聞き出すことができた。それはボーカリスト手越祐也がデビュー以来ずっと抱いていた違和感を何年もかけて自身の努力で解決してきたことにあった。
歌うたいにとってステージで最高のパフォーマンスを届けるために必要不可欠なものは「モニター」。演奏と自らの声を確認するためには欠かせなく、コンサートやテレビの収録前のリハーサルでは「モニターチェック」にかなりのプライオリティが置かれるのが常だ。でも、ステージやスタジオの環境、当日のコンディションやスタッフで毎回最良の状態になるとは限らない。それで予定以上にリハーサルに時間がかかったり、思い描くモニターにならず機嫌を損ねてしまうアーティストが居るのも事実だ。その舞台裏をデビュー直後、10代の頃から彼は違和感を持って見ていたという。曰く
「ボーカリストはその時の状況にあわせて最高のパフォーマンスを目指すのが本来の姿。限られた時間、条件を受け入れてなんとかベストにもっていくのがプロ」だと。
いうのは簡単、でも、というまさに正論。これをずっと心がけていくにはかなりの忍耐力と鍛錬が必要なのは想像に難くない。それでも20年前のデビュー時から彼は肝に銘じて様々な場所で歌ってきたのだ。だから名だたるベテランシンガーも手こずるオーケストラの音圧と対等に渡り合うコンサートを「楽しい」といい「次を」と熱望できる、長時間歌い続けても衰えないボーカル力を手にしてきたのだ。
さてコンサートに話を戻そう。
オーケストラが休憩なし、ぶっ通しの演奏でパフォーマンスすることはもちろんだけど、音圧は前回よりも高くなっている印象がするし、それに負けじとボーカルの歌、言葉の力がますます増してすべての曲の歌詞が胸に届いてくるという、素敵な「バトル」が楽しめた。なんだかオケもマエストロも編曲家たちもボーカリストも、遠慮のタガがいい意味で外れて全力で楽しんでいる。コンビネーション、というより(ここに適している言葉ではないと思うけれど)バンド感が増して成熟してきた印象。そうボーカリストとオーケストラがともに歌っているパフォーマンスが素敵だった。さらに前回、オーケストラからの挑戦状ともいえた公演を締めくくるメドレー曲は、今回もちろん2公演違うアレンジ、違う選曲で構成という返しでこたえていた。
そして今回、ピアノでジャズもクラシックもとジャンルを問わずに活躍している「藤井空」がオーケストラに加わったのも大きかったという。僕ら聴衆にとってわかりやすかったのは、フルオーケストラとエレクトリックピアノってこんなにも相性がいいんだ、ということと、ボーカリストにとってはグルーブを感じさせるクラシックピアノ、なんていう言い方があっているのかどうかはわからないけど、それがとても心地よさそうに見えていたこと。そんな数々のことからこのコンサートはまだまだ進化するのは間違いない、と思わせてくれた。
1回目の「この手とその手」はリハーサル時から白眉だったし、「ONE LIFE」には2回とも涙腺をやれてしまう有り様。驚くほどの進化があちこちに感じられるパフォーマンスだった。
そういえば、リハーサル終わりにオーケストラの音楽主幹がいった一言に耳を疑ったことがあった。「MCの時のBGMですが…」
フルオケの生演奏をBGMにMCをするシンガーって今まで僕は見たことがなかった、というかそんなオファーを出せるなんて。前回と繰り返しになるけど、こんな構成、僕だったら楽団員、だけじゃなく編曲家と何よりマエストロの反応が怖くってとても出来ない。でもそれを楽しそうに受け入れて、実現させるこのオーケストラと手越祐也のプロジェクトは、もうどこにも真似できない最強のシンフォニックに成長していくのだろう。そう、最後の生BGMありのMCからオーケストラのメドレーへの流れ、これも秀逸だし、これこそが2度目のスタンディングオベーションを更に盛り上げたのだと確信している。
最後にもう一つ、忘れずに記しておきたいことが。手越祐也のリリースしてきた、そしてこれからリリースする楽曲が、バンドツアーでは、そしてシンフォニックコンサートではどんな曲に成長していくのだろう。また楽しみがまた増えていくと思う。
Text by Hiroyuki Tsumagari