【インタビュー】講談師 神田京子「講談師それぞれの経験が個性となって話に味わいを持たせて相手に届く」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第63 回は、日本の伝統芸能である講談を行う講談師の神田京子さん。講談という文化を日本に残すために講談師を志し、現在も第一線で活躍する神田さんに迫ります。

【インタビュー】講談師 神田京子「講談師それぞれの経験が個性となって話に味わいを持たせて相手に届く」

神田京子(かんだ きょうこ)
岐阜県出身。日本大学芸術学部放送学科卒業。在学中の1999年7月、二代目神田山陽に入門。山陽他界後は神田陽子に師事。連続講談「清水次郎長伝」、「明治白浪女天一坊」、「安政三組盃」の他、「怪談噺」、「赤穂義士伝」などスタンダードな講談会を重ねる一方で、「講談+α」の公演も各地で展開し、講談の可能性を広げ続けている。令和三年度(第76回)文化庁芸術祭賞優秀賞受賞、令和三年度岐阜県芸術文化奨励受賞。

 

◆講談師それぞれの経験が個性となって話に味わいを持たせて相手に届く

仕事内容を教えてください。

歴史上の人物や出来事の話を興味深く聴いていただけるように、おもしろおかしく工夫をして話す、講談師という仕事をしています。

講談師を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

高校時代に“喋り”を使う仕事がしたいと思い、人前で話す仕事のイメージとしてアナウンサーや司会業があったので、その勉強をするために日本大学芸術学部の放送学科に入りました。一年生の時はアナウンサーを目指すために勉強をしていたのですが、放送業界で働く方のお話を聴いているうちに、“私は会社に所属することに向いていないな”と思って。アナウンサー以外に喋る仕事はないのかと思っていた時に、先輩に紹介してもらって落語や講談をやっている寄席を観にいきました。そこで初めて落語や講談といった“話芸”の存在を知り、寄席に通うようになっていって。歴史上の事件や有名人の人物伝を、時代に溶け込んで現地を見てきたかのようにレポートする話芸、講談に魅力を感じたんです。“キャスターの元祖”とも言われるくらいなので、もともとアナウンサーを目指していたこともあり親近感が湧いたのだと思います。あとは“講談はいつか廃れてなくなってしまうかもしれない”と言われていた時代だったので、今ある魅力的な日本の文化が消えてしまうかもしれないと思って。この講談の世界に入れば、私が生きている限り講談が継続されると思い、講談師を目指すようになりました。私は最初から就職はしないと決めていたので、周りの友達が大学3年生で就職活動をしていた時に、集中的に寄席に通って“講談とは一体どんな世界なんだろう”ということを勉強し始めました。そのまま大学4年生になり、まだその先の道も決まっていなかった時に、日本講談協会の定席がありまして。そこで二代目神田山陽が特別講談をやると知り観に行った時にすごく感動し、その後すぐに師匠のところに押しかけました(笑)。「師匠の講談を見て感動しました。弟子になりたいです」と頭を下げたら「そうか、じゃあやってみたまえ」とすぐに許可が降りて。“熱意ある学生に門戸を開いてあげたい”という愛情でとっていただき、大学4年生の夏休みに神田京子という芸名をいただきました。
そこからはまず講談会がどんなものなのかを知らないといけないので、楽屋で先輩たちの講談の準備を見て、先輩たちの着物の着替えの手伝いやお茶出しなどの楽屋仕事を覚えていき、自分の着物の畳み方などしきたりを学ぶところから始まりました。講談の席だけだと1ヶ月で10席くらいあったのでそのタイミングで勉強をし、空いている日は師匠のもとに伺ったりネタを覚えていきます。入門して3ヶ月目から“見習い前座”といってお客さんが入っていない状態の会場で発声練習を兼ねてお稽古をして。そうして場数を踏み、4ヶ月目くらいで、開場後の前座の時間に5〜10分喋るというのをやらせていただき、技を鍛えていくという感じでした。

仕事をする上で持たれているポリシーはありますか?

ワクワクしたことには貪欲に取り組んでいくということです。そうすると自分自身もイキイキと講談ができるので、聴いているお客さんも楽しんでくれるんですよね。この世界に入る時も、二代目神田山陽の講談に感動し、「この師匠の一門に入る」という直感で決意したので、どんなにつらいことでも我慢できたんです。自分がどんな物語をお客さんに届けようかと思った時には、やっぱり自分自身が感動した話を届けるということはブレないようにしています。

仕事をする中でのやりがいを教えてください。

自分が届けたお話で「すごく元気が出た!」という方がいらっしゃることが一番のやりがいです。コロナ禍以前は楽屋を訪ねてくださって「よかったです」と言ってくれる方もいましたし、今も公演後すれ違った際などに感想を伝えてくださることもあります。高座からお客さんの顔を見て“届いたな”と思う時にもやはりやりがいを感じますね。

神田さんが思う講談の魅力を教えてください。

自分が話す物語を通して、人の心を動かしたり感動に繋がるのが講談のすごいところだと思います。映像もBGMもなく、ただ目の前で人が喋っているだけなのですが、講談師一人ひとりにも人生があり、それぞれの経験が個性となって話に味わいを持たせて相手に届くという。聴いてくれるお客さんの中には、消えちゃいたいと思うくらい悩んでいる人もいるわけですよね。そういう人が講談を聴いて「歴史の中ではこういう人がいて、こんなつらい想いをしたのに這い上がったんだ」などと感じてくれることがあると思うんです。講談には人の人生を扱った物語が無限大にあるので、聴き手一人ひとりのどこかにひっかかるようなエピソードがあるんですよね。話で人を元気にできる仕事だと思うので、それは魅力だと思います。あとは講談自体がシンプルな芸能なので、人に伝わりやすいというのも魅力だと思います。

高校生にメッセージをお願いします。

直感力を鍛えてほしいです。私は今子育てをしていますが、日に日に周りと合わせることがマストのようになってきていて、それが平等のようで不平等だなと感じます。周りに合わせて鈍感になって、傷ついても傷ついてないフリをしていると、喜ぶ時にも素直に喜べないんですよね。しっかりと傷ついた経験があるからこそ、嬉しい時に喜べるんです。周りに同調することも大切ですが、自分が何にワクワクして、どんなことに感動したかという経験をしっかりと重ねていき、いざ道を決める時に余計な雑念に惑わされずに済むよう、多感な時期にこの感覚を鍛えてほしいなと思います。人は感動しなければ行動出来ません。

 

お仕事言葉辞典 講談師編

【空板】からいた
“見習い前座”のこと。お客さんが入る前の高座に上がらせてもらい、客席が空の状態で発声練習も兼ねて講談を行う。師匠などが弟子に対して「そろそろ空板に上がらせてあげよう」などといった使い方をする。

お仕事道具見せてください!

【インタビュー】講談師 神田京子「講談師それぞれの経験が個性となって話に味わいを持たせて相手に届く」

手ぬぐい、扇子、張り扇
手紙や巻物などに見立てる小道具・手ぬぐい、同じく筆やキセルに見立てる扇子。そして講談の特徴の一つでもあるのが、張り扇。この張り扇を利き手で持ち、拍子を取りながらリズミカルに話が進められます。

 

INFORMATION

神田京子さん公式HP
http://kandakyoko.com/index.html

2023年3月12日(日)
横浜にぎわい座にて、「神田京子独演会〜講談+α〜」開催決定!