【インタビュー】缶メーカー代表取締役 石川貴也「みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることが嬉しい」

さまざまな職業で活躍する人に迫るWorker’s file。第76回は、老舗缶メーカー側島製罐株式会社の代表取締役で事業企画に携わる石川貴也さん。経営者の視点から目指す会社像や一緒に働きたい人について話を聞きました。

【インタビュー】缶メーカー代表取締役 石川貴也「みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることが嬉しい」

石川貴也(いしかわ たかや)
愛知県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本政策金融公庫に入庫。国民生活事業本部にて営業や企画職として働いたのち、内閣官房に出向。2020年に家業である側島製罐株式会社に入社し、2023年4月に代表取締役に就任。組織開発、商品開発、マーケティング、広報など事業改革に取り組んでいる。

 

◆みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることが嬉しい

仕事内容を教えてください。

側島製罐株式会社はお菓子や乾物、ワックスなどの缶を製造している会社です。僕はその中でも組織開発や広報など、経営に近いところの業務に大きく携わっています。

 

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

実家が製造業の認識はありましたが、僕は文系で大学も経済学部だったので“ものづくり”をあまり意識したことがありませんでした。卒業後は日本政策金融公庫に入社しキャリアを積んでいきましたが働いている間も、自分が大学まで行かせてもらい、働けているのは側島製罐のおかげだなと思っていて。自分が60歳になった時のことをふとイメージした時に、側島製罐がなくなったら嫌だなって思ったんです。自分を育ててくれた会社が苦しい時に見て見ぬ振りをし会社がなくなり、僕だけが、“いい人生だったな”っていうのは何か違う気がしました。だったら戻ろう、そう思って前職を辞めて側島製罐に入社することを決意しました。

 

石川さんが目指す会社像はありますか?

みんなが楽しくいきいき働ける会社を目指しています。僕は、良い人生からしか良い仕事は生まれないと考えていて。働いている人たちと信頼関係を築き、みんなが自律的に自分の人生に明確なミッションや意義を持って働ける環境を作りたいと思っています。入社した当初は正直上司が一方的に命令して従う、昔ながらの雰囲気が残っているような感じで、「あまり長くこの会社にはいないほうが良い」と先輩が新入社員に諭すことすらあったくらいです。やっぱり自分が経営者になる以上、働く人が胸を張って良い会社だと言える場所にしたいという想いがあり、みんなで経営理念を改めて作り直したり、デジタル化などに取り組んできました。その中で重要になったのが社員との会話です。みんなが話す場所を増やし、命令や指示を減らして、自分たちで自律的に働ける環境を時間をかけて作りました。最近は「転職したみたい」ってみんなが言うんですよ。みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることに嬉しくなります。

 

石川さんが一緒に仕事をしたいと思う人はどんな人ですか?

自分ではない誰かのために頑張れる人は素敵だなと思います。今は本当に働くみんなの雰囲気が良くて。共通しているのは、自分さえよければいいっていう考えが好きじゃないところだと思うんです。お互いのサポートを何も言わなくても自分の意思でやるような、仲間のために頑張れる人と一緒に働きたいなと思います。

 

仕事をしている上でのやりがいを教えてください。

みんなが自分たちの仕事や会社の将来について熱く語っている姿を見る時に、自分の存在意義を感じます。僕の大きな仕事は、環境を変えることだと思っているのですが、直近では今年の10月から、「自己申告方報酬制度」を導入したり、オフィスのリノベーションをしたりして、よりみんなが誇りをもって自律的に働ける環境を作っています。それも僕だけの意思決定でやっているのではなく、みんなと一緒に決めていて進めています。みんなと0の状態から一緒に何かをやるっていうのは大事にしていて。それを通して、全員で成長していることを実感できるのはすごい楽しいです。

 

“ものづくり”のやりがいは何だと思いますか?

目に見えて、自分達の作ったものが世の中に出ていくのが何よりのやりがいだと思います。うちでは、有名なパティシエのお菓子やテーマパークにも缶を卸しているので「缶カンが可愛い」と言って手にとってくださるお客様もいらっしゃいます。自分達が作った缶が、実際に手に取られていく姿を見られるのがものづくりの醍醐味の一つだと思います。また、僕たちの会社では「宝物を託される人になろう」というビジョンを掲げていて。使い終わった缶にお手紙や大事なものを入れて保管する人も多いじゃないですか。そういう色んな人たちの大事なものを入れておくことに値する商品を作ることが、自分たちの存在意義なんじゃないかなと思っています。

 

前職で活かされている経験はありますか?

政府系金融機関って結構特殊で、仕事自体はメガバンクの融資と同じなんです。その中で1番の違いは、国のセーフティネットという見られ方をしている所。お客様の中には、銀行に断れて藁にもすがる思いの人がたくさんいます。中にはどうしてもその時点では融資を実行できない場合もあるのですが、そういう方の融資を断る時に、「決算が良くないので」とか「財務状況が悪いので」とか、表面的な理由だけではご納得いただけなかったんですよね。ただ目の前の融資の可否を判断することが自分の仕事ではなくて、どうすれば企業が維持・発展できるか、ということを追求することが自分の仕事の意義であって、そういう視点で折衷する力は前職で鍛えられましたね。感情を煽ったりすることなく、事実に基づいて説明しつつ、相手の気持ちにも寄りそう。それって中小企業での今の仕事とも似ていると思うんです。転勤や移動も少なく、働く人も長い時間一緒にいて人間関係が濃いので、人間の感情と向き合う部分が多いので、経営者として逃げずにみんなと向き合うことは前職の経験があったからこそできる所だと感じています。

 

進路に悩んでいる高校生にメッセージをお願いします。

高校3年間で将来後悔しない選択をしてくださいというのは重すぎるかなあと思います。世の中先行きは不透明で、人生どうなるかなんて誰にもわからないので、今は夢中になれるものを見つけて一生懸命やるのがいいんじゃないかな。無駄なことなんて何もないし、今は自分の好きなことを追求して精一杯楽しめばいいと思います。恋愛でも部活でも勉強でも、何かに自分の想いを賭けて夢中になる経験は、きっと人生を豊かにしてくれる一生ものの経験になると思いますよ。

 

お仕事言葉辞典 缶メーカー編

【半缶】はんかん
一斗缶(18L缶)の高さの半分の大きさの缶。あられやせんべいを入れるのによく使われる缶メーカーの主力商品の一つ。最近では、牡蠣のガンガン焼き(蒸し焼き)などで利用されることもある。

 

お仕事道具見せてください

【インタビュー】缶メーカー代表取締役 石川貴也「みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることが嬉しい」

高機能マイク
打ち合わせ等で頻繁に使う電子機器などにはこだわりがあり、ガジェットはデザインがかっこいいものを取り入れています。このマイクは見た目がかっこよく、使っているだけでご機嫌になれるアイテムだそうです。

 

INFORMATION

石川さんが代表取締役を務める 側島製罐株式会社

【インタビュー】缶メーカー代表取締役 石川貴也「みんなが働くことに意義や、喜びを感じてくれていることが嬉しい」

https://sobajima.jp