今号2本目となる“Worker’s file”は、『MIU404』や『下剋上球児』といった数々の大ヒットドラマを企画し、4月から金曜夜10時放送『9ボーダー』のプロデューサーを務める新井順子さんに迫ります。
株式会社TBSスパークル勤務。主な代表作に、2020年『MIU404』、2021年『着飾る恋には理由があって』『最愛』、2023年『下剋上球児』がある。4月19日からTBSで放送開始される『9ボーダー』、今夏公開予定の映画『ラストマイル』のプロデューサーも務めている。
◆人に言われて失敗するなら、自分の意見を貫いて失敗したほうがいい
―仕事内容を教えてください。
現在は4月19日から放送されるドラマ『9ボーダー』のプロデューサーと今夏公開の映画『ラストマイル』の公開準備をしています。『9ボーダー』では、脚本家さんと一緒に台本を作って、撮影が始まれば現場が安全に撮影できているか、お芝居の方向性は大丈夫かなどをチェックします。収録が終わったら次は編集。監督が撮影し編集したものを客観的に観て感想を伝え、さらにCMが入るタイミングや音楽の付け方など話し合いながら完成させていきます。そのほか、宣伝の仕込みや、労働環境を整えることもプロデューサーの仕事です。
―現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
昔からテレビが好きで、中学生の時から“テレビ業界で働こう”という思いがありました。高校生の時には、ドラマをやりたいっていうのを決めていたんですが、大阪出身なので、「とにかく東京に行かないと!」と思い東京の専門学校に入学しました。入学後すぐに撮影現場のアルバイトを始めました。同時に1年生から就職活動をするんですけど、1年の秋には制作会社の採用が決まって。それからずっとドラマ制作の仕事に携わっています。
―ドラマ作りで大変なことはありますか。
大変なことしかないです(笑)。若い頃は朝起きるのが大変でした。今はそんなことはありませんが、当時は毎朝4時に起きて、夜の12時に帰ってまた朝4時に起きてというのを4ヶ月くらい続けるんです。収録がない日も朝10時くらいから行って、てっぺん(夜の12時)に帰って、また次の日……。もう眠すぎて頭が働かないんです(笑)。次々準備しなきゃいけないし、次々台本も上がってくるし、本当に体力勝負。ただし、撮影中はお弁当は出てきて3食無料だったので貯金が貯まりました(笑)。今は、同時に進めている企画がいくつかあるので、“自分が倒れたら誰が台本を作るんだ”とか“企画が止まる”といった、休めない、倒れられないというプレッシャーがありますね。
―仕事のやりがいを教えてください。
自分がやりたいと思ったことをみんなが一生懸命やってくれるのがありがたいなと思います。台本ができたら、そこからは主に監督の仕事。スタジオ以外での撮影場所を決めたり、編集をしたり、完成したら確認する。企画を立ててからそこまで辿り着くのに2、3年かかります。ですが、撮影に入っていくと、台本作成には追われますが、少し気が楽になります。企画を立てている段階は自分一人での作業なんですけど、企画が通ってからは徐々に監督や脚本家さんが合流して、だんだんと仲間が増えていくと気持ちが軽くなります。いろんな人が集まって、一つの作品を作っていくのでとてもやりがいを感じます。
―仕事をしている上で持たれているポリシーはありますか?
意志を曲げないことです。いろんな意見が飛んでくるけど、自分がいまいちだと思ったらやりません。それが「なるほど」って思えばやりますけど、これまでいろんな経験をして、言われたようにやったらうまくいかなかったこともあって。人に言われて失敗するなら、自分の意見を貫いて失敗したほうがいい。そういう意味でも、自分の企画で自分の好きなキャストとスタッフで、自分のやりたいことをやることを大事にしています。
―ドラマ作りの魅力を教えてください。
ドラマ作りって一人じゃなくて、チームで作っている感がすごくあるんです。4ヶ月間、キャストもスタッフも毎日のように会って、家族よりも色濃い時間を使って作品を作って、解散する。ドラマの撮影期間で、人との関係が深まっていく感じがあり、やればやるほど自分が成長していく感じがします。いつも同じ人と仕事するわけではない特殊な仕事なので、いろんな人に出会い、いろんな気づきを与えてくれるのでおもしろいです。
―新井さんが一緒に仕事をしたいと思う人材を教えてください。
脚本家さんだと、「なるほど!」という台本を書いてくれる人です。打ち合わせでは想像もできなかった上をいく台本をあげてくれる方と一緒に仕事をするのは楽しいです。キャストさんでいうと、“そういう風に演じるのか”とか“いい表情するなぁ”という方とは、また一緒にやりたいなって思います。スタッフですと、やっぱりドラマがやりたい熱意がある人です。好きって気持ちがないと続かないし、やっているこっちも楽しそうにやっているな、つまらなそうだなって気づくんです。思いがないと、ただこなすだけの仕事になってしまいます。みんな最初は仕事ができないのですが、仕事を一生懸命やっていればどんどん成長していくと思うので、熱意のある人と一緒に仕事がしたいです。
―『9ボーダー』はどういうドラマですか?
「9ボーダー」は19歳、29歳、39歳と各年代のラストを指した造語で、「9ボーダー」真っただ中の川口春奈さん、木南晴夏さん、畑芽育さん演じる3姉妹が、「LOVE」「LIMIT」「LIFE」の“3L”をテーマに成長していく話です。連ドラは長いので、様々な要素をごちゃまぜにして急展開が2回ほどくるように作っています。
―テレビ業界を目指す高校生にメッセージをお願いします。
ドラマや映画を作るのはクリエイティブな仕事なので、こういうことがやりたいという発想力がないと続きません。そして何より体力。実際体力が続かないという理由で辞めていく人もいます。現場では朝から晩まで走り回って、夜帰って寝て、朝早く起きてまた仕事をしなきゃいけない。体力が心配だなと思うなら、毎日走るなど鍛えたほうがいいです。そして、採用試験の時に書くエントリーシートでいかに自分がした体験をおもしろおかしく書いて目立てるか!「自分の強みは〇〇です」などと定型文のような文章だと目立ちません。「体力」「自分を目立たせる文章力および発想力」、そして場持ちさせるための「コミュ力」。私はこの3つが必要だと思うので、ぜひ身につけておくと役に立つと思います。
お仕事言葉辞典 ドラマプロデューサー編
【テレコ】 てれこ
入れ替えるという意味の業界用語。元々は、異なる筋の話をひとつの脚本にまとめて、交互に進行させる歌舞伎の表現方法のこと。「20日と25日の撮影スケジュールをテレコにしよう」のように使う。
お仕事道具見せてください
台本
現在撮影中のドラマの台本。脚本を書くのは脚本家さんですが、話の方向性を決め、意見を出すのもプロデューサーの仕事です。脚本家さんと二人三脚で物語を作っています。
INFORMATION
\新井さんがプロデューサーを務める新ドラマ 『9ボーダー』/
公式サイト
https://www.tbs.co.jp/9border_tbs/
Instagram
https://www.instagram.com/9border_tbs/