今回のWorker’s fileは、毛筆を用いて賞状などの文字を書く“筆耕士”の梅野秀柳さん。卒業証書などで、皆さんも一度は目にしたことがある筆耕士の文字。印刷が主流となりつつある現代、手書き文字を生業とする“字を書くプロ”に迫ります。
神奈川県出身。20年間ほど花の仕事をする中で、開店祝いのスタンド花の札を書く機会があり、筆耕の仕事に興味を持つ。その後、筆耕の養成所で賞状の書き方等を学び、筆耕士として仕事を始める。賞状や卒業証書などを中心に、イベント時の看板、式次第など、さまざまなものの筆耕を行っている。
◆今でも変わらず文字を書くことは好き。文字を書くことに飽きたことがない
-仕事内容を教えてください。
ご依頼者からいただいた原稿をもとに筆で文字を書くという、筆耕士の仕事をしています。書くものとして、私は賞状などが主になります。最近は印刷されているものも多いと思うのですが、手書きが必要な場面は今でもありまして。賞状をはじめ卒業証書などもその一つで、今の時期は何千枚と書いたり、とても忙しい時期でもあります。企業さんからは、永年勤続の表彰状なども依頼されることがありますね。その他サイズが大きいもので言うと、卒業式の時に校門に立てられる「第○回 卒業式」といった看板も書くことがあります。
―筆耕士になるまでの経緯を教えてください。
もともと字を書くことが好きで、学生の頃は先生の板書をノートに綺麗に書き写したり、友達の分まで進んで書いていました。ただ、筆耕士になってからはまだ10年くらいで。その前はずっとお花の仕事をしていたんです。お店の開店祝いで大きいお花が飾られることがあるのですが、贈った人の名前などが書かれる札はだいたいパソコンで作るんですよ。それを作っている時にパソコンが壊れてしまって、「私が書くよ」と書いたところから私の筆耕が始まりました。休みの日には筆耕会社でお手伝いをして、筆耕士の養成所にも通い始めて。私はとにかく賞状を書きたかったので、そこでは賞状の書き方を一生懸命学びました。文字の置き方ひとつとっても全然印象が違うので、文字を習いにいくというよりも、賞状のレイアウトを学んだ感じです。あとは場数を踏めばなんとかなるだろうという考えで、筆耕士としての活動を始めました。
―どうして賞状を書きたかったのですか?
賞状をもらった時って、じっくりと見て“自分はこの賞状をもらったんだ”としみじみ感じるものがあると思っていて。卒業式でもらえる卒業証書でも、もらった本人はそんなにじっくり見ていなくても、親御さんからするとしみじみと我が子の成長を感じられるものだと思うんですよ。だから賞状や卒業証書を書いてみたいなと思っていました。
―仕事のやりがいを教えてください。
賞状が手に渡る時って、贈呈者がいて受賞者がいますよね。賞状はその贈呈者から受賞者への敬意の表れでもあると思うので、自分が書いた文字は目立たなくて良いと私は思っています。贈呈者にとってみれば「頑張りました」というその想いが重要なので、縁の下の力持ちとしてその場面に関われるということが魅力であり、やりがいかなと思います。
―筆耕士としてのポリシーを教えてください。
間違えたものを世に出さないことです。やっぱり人が書くので間違えることはあるんですよ。例えば人の名前を書く時だと、ありふれた名前に引っ張られて“山田花江”を“山田花子”と書いてしまったり、自分の友達と似た名前の時は友達の名前で書いてしまったり。機械ではないので、どんなに気をつけても間違えてしまうことはあるんです。そのため、確認する時は名前を上から読まずに下から読むということをやっています。上から順番通りに確認するとどうしても流れで読んでしまうんです。流れで読んでしまうと漢字の間違いに気づかなかったりするので、確認するときは私の場合は後ろの文字から確認します。
―梅野さんが思う手書き文字の魅力を教えてください。
顔と一緒で、人それぞれ違うところですかね。筆耕という点で言うと、印刷したインクと墨の色は明らかに違うんです。手書きで書いたものを印刷したとしても、それは全く別のもので。墨で書かれた文字の重たさや色味が手書きの魅力だと思いますし、筆耕の魅力だと思っています。
―もともと好きだった“書く”ことを仕事にしてみていかがでしたか?
嫌になるかと聞かれると全くそんなことはなくて、今でも変わらず文字を書くことは好きですね。繁忙期って何千枚と書くので、すごく疲れるんです。頭もボーッとしてきますし。だけど私は文字を書くことに飽きたことがなくて。全く同じものを書くことがないからこそ、面白いのかもしれないです。
―高校生にメッセージをお願いします。
最近だと手書き文字を見る場面が減っていますが、筆耕士が一人でもいる限り仕事はなくならないのかなと思っています。地味な仕事だけれど、卒業シーズンなど必要とされるときはすごく忙しかったりもします。私は自分が好きなことだからこそ、仕事を続けられています。それはどんな仕事においても同じだと思うんですよね。だから筆耕士という仕事に限らず、何かに迷ったり、どちらか選択しないといけないときは、自分がワクワクする方に進んでみたらいいのかなと思います。
お仕事言葉辞典 筆耕士編
【割り付け】わりつけ
文字の位置や大きさなどを決める作業のこと。賞状などの筆耕をする際、1行に何文字入れるか等もこの割り付けで調整するため、レイアウトを決める際の大事な工程となっている。
お仕事道具見せてください
筆耕時の必須アイテム
墨が飛び散ってしまった際には、カミソリで紙を削って修正。その時にできてしまう紙の凹凸は、写真右上ガラストレーの上に乗ったボタンを使ってならすそう。賞状を書く際には下書きを透けさせるため、トレース台の上で書いています。
INFORMATION
梅野さん公式ホームページ「梅秀の筆耕室」
▶︎▶︎▶︎ https://mayshu-blog.com