昨年“本当に怖いホラー映画”として話題となった『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ最新作『あのコはだぁれ?』が7月19日に公開! 第86回のWorker’s fileでは、『あのコはだぁれ?』のプロデューサー・大庭闘志さんに仕事の魅力などをお聞きしました。
2010年松竹株式会社入社。映画宣伝部にて、『劇場霊』(15)、 『HiGH&LOW』シリーズ 、『騙し絵の牙』(21)などの宣伝プロデューサーを担当。2020年より映像企画部にて映画制作に携わり、『JSB3 LIVE FILM / RISING SOUND』(23)、『ミンナのウタ』(23)、『あのコはだぁれ?』(24)のプロデューサーを務める。
◆仕事でハードなことが多い分、その跳ね返りが楽しい
仕事内容を教えてください。
映像企画部という部署で、映画プロデューサーをしています。プロデューサーは、映画を0から企画し、仲間を増やしてプロデュースしていく仕事です。現在制作しているのはホラー作品ですが、恋愛やサスペンス、アクション映画の開発や過去にはライブフィルムなど、様々なジャンルの映画をプロデュースしています。
現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。
大学生の頃、近所にレンタルビデオ屋があり、時間にも余裕があったので、時間の許す限り映画を観ていた時期がありました。たくさんの時間を費やし、加えて楽しい時間を味わわせてくれた映画を届ける側になりたいという思いが出てきたんです。映画配給会社に入るのはハードルが高いなと感じていたため記念受験の気持ちで受けたら、ありがたいことにご縁があり入社することになりました。入社後は、宣伝の仕事を10年ほど担当し、3年半前から映画プロデューサーとして映画作りに携わっています。
映画の企画はどのように考えていますか?
企画を立てるのにはいろいろな切り口があり、自分が感銘を受けた原作を映画化するために企画するものや、オリジナルで物語のプロット作りから考えるものなどがあります。僕は宣伝の仕事が長く、0から1を考えるのが苦手で……。僕の場合は、映画監督や脚本家など、様々なクリエイターの皆さんとの会話から企画の糸口を見つけて、それを実現するために企画を立てることも多いです。
仕事のやりがいを教えてください。
映画としての結果の良し悪しなど、含めて全部の責任がプロデューサーにのしかかります。そこはプレッシャーでもありますが、自分たちが中心になって動いていることへの責任とやりがいを感じます。また、映画公開後にお客様からの率直な意見や感想、評価をいただけるのはとても嬉しいです。もちろん辛辣な意見が挙がってくることもありますが、数ある映画の中から見つけて作品を観てくれて、評価してくれること自体がありがたいので、それもやりがいなんじゃないかなと思います。
仕事をする中で学んだことはありますか?
僕は人のクリエイティブなものを尊重して、それを実現することに価値を見出しているのですが、どんな時でも自分の意見を持つことはすごく重要だと思っています。プロデューサーは会社とクリエイターの間のポジションでもあるのですが、自分の意見がないまま間に入っていると見透かされちゃうんですよね。それに気づいてからは、どの作品も自分事で考え、良いことも悪いことも自分の言葉として説明するよう心がけています。
働く上で持たれているポリシーを教えてください。
つらいこと、しんどいことを乗り越えるためにも、自分が楽しさを見出せるのかはいつも考えています。何も楽しみを見出せないと、しんどいことを乗り越えるための馬力をもてないと思うんです。その楽しさというのは作品そのものでもいいし、このキャストや監督と仕事がしたいでもなんでもよくて。突き進むために楽しみを見つけて今どれだけ頑張れるかが重要だと思っています。僕自身まだまだ失敗も多くてつらいこともありますが、乗り越えた時の楽しみがしっかりとあるから頑張ろうと思えます。
映画プロデューサーの魅力を教えてください。
しんどい、楽しいなどいろいろな波がありますが、その波すらもおもしろいんです。例えばホラー映画ですと、観終わった後の日常がとても平和で楽しく感じるように、仕事でハードなことが多い分、その跳ね返りが楽しくて。その感覚がやみつきになってしまうんです。その波の中心にずっといられて、“生きているぞ”と実感できるのが楽しいですね。その分、常に何かに追いかけられている感覚はあって(笑)。そのためにも、気持ちの安定を保てるように、心のオンオフを切り替えられるようにしています。
映画『あのコはだぁれ?』を制作しようと思ったきっかけを教えてください。
昨年公開された『ミンナのウタ』がホラー作品として良い評価をいただいたこともあり、清水崇監督と新しいホラーを作ろうと動き出したんです。『ミンナのウタ』に引っ張られない新しい要素を入れて、新しいお客様にも楽しんでもらえるホラー映画、なおかつ一年後に公開できる早いスパンでやりたいと監督たちとも話し合って。ちょうど夏休み公開のスケジュールが取れたので、夏休みの学校をモデルにしたホラー作品にしようと物語を作っていきました。
映画『あのコはだぁれ?』はどんな作品ですか?
夏休みの補習授業のために入った臨時教師と補習授業のために集められた5人の生徒たちがいるのですが、ふと気づくともう1人生徒がいるんです。夏休みに集まってくる生徒なので、誰がどのクラスというのもわからなくて、“この子”もいたよなと思いながら物語が始まります。徐々に「あれ“あのコ”はだれ?」となり、どんどん先生と生徒が恐怖にさいなまれていく話になっています。
主演に渋谷凪咲さんをキャスティングした理由を教えてください。
渋谷さんは、プロデューサー陣と清水監督とで話し合ってキャスティングをしました。主人公の君島ほのかというキャラクターを作り、いざキャスティングとなった時に、渋谷さんがNMB48をちょうど卒業されるタイミングでとても旬だったことも理由にありますが、個人的に、吉本新喜劇とNMB48のコラボミュージカル『ぐれいてすと な 笑まん』を観に行っていて、歌えるだけでなく、笑いも取れて踊れる、エンターテイナーとしての素質を感じていたんです。渋谷さん自身が女優として頑張っていきたいことも知っていたので、ぜひ渋谷さんと清水監督の化学反応に賭けてみようと思いオファーさせていただきました。
現場の雰囲気はどうでしたか?
清水監督の現場は、ホラー映画を作っている現場とは思えないほど和やかで笑いが絶えないんです。監督の人柄が一番にあると思いますが、監督は「怖さは笑いと紙一重」ということをよく言っていて。フリがあってオチがある、仕掛けがあって怖さや笑いになる、そういうところが共通しているのかなと思います。現場でも怖ければ怖いほど、カメラの裏では笑っちゃうようなとても明るい現場でした。主演の渋谷さんも、映画の現場が初めてだったこともあり緊張していたと思うのですが、すごく優しさに溢れている方で。持ち前の気遣いで、キャストやスタッフ1人ひとりに丁寧に接してくださってまさしく座長でした。現場の雰囲気を作ってくれた渋谷さんにはとても感謝しています。
映画『あのコはだぁれ?』の見どころを教えてください。
舞台は夏休みの学校ではあるのですが、例えば通学路やゲームセンター、家など学生たちの生活圏で巻き起こるホラー作品になっています。鑑賞後は、学生の皆さんの身近なところにこそ怖いものがあると思いながら、映画館を出てほしいです。遊園地のお化け屋敷を楽しむみたいに、怒涛のホラー描写も楽しんでもらえたら嬉しいです。
高校時代はどんな高校生でしたか?
高校生活は青春を謳歌したかったので軟式野球部に入って野球をしながら、バンドを組んでドラムをやっていました。当時流行っていたHi-STANDARDやHAWAIIAN6をコピーしていたのですが、めちゃくちゃヘタクソで(笑)。1年生の時からやっていたのに、2年生で大恥をかいて、3年生でも大恥をかいて。そんな感じだったんですけど、それもすごく楽しかったです。
当時は将来についてどんなことを考えていたのですか?
当時は、バラエティ番組のディレクターになりたいと漠然と思っていました。当時『めちゃ×2イケてるッ!』と『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』が好きで。この2つの番組は、スタッフがすごく活躍する番組なんですよ。裏方なのに楽しんで、おもしろいものを一緒に作っている姿にすごく憧れていました。ただ、大学に進学し、将来的には安定したいという思いもあって。大学ではメディア系の学科を出ていたので、どこかでエンタメ系の道に進みたいと考えていました。
今後の目標を教えてください。
興行収入も作品の評価も大成功と言われる作品を制作したいです。数字にこだわるわけではないですが、50億、100億という大台を数字上でも超えられる作品に携わり、一般的に評価されるものを作りたいと思っています。それと、頭を空にして時を忘れるくらい作品の世界に浸れる映画を作りたいです。頭を空にして楽しんでもらうためには、制作側が頭を相当使わないとできないと思うので、いつか作ってみたいです。
映画業界に興味のある高校生にメッセージをお願いします。
プロデューサーは設計図を作る数少ない稀な仕事です。自分の思い描く作品に導くために監督さんやキャスト、脚本家さんなどを自分で判断して決められるのはとても幸せなことだと思います。また、僕たちの商品は物語で、僕たちが作った物語が、誰かの人生に影響を与えられるのはとても光栄なことです。物語づくりの中心で仕事を進めていきたいと思える人にはもってこいの仕事だと思います。
お仕事言葉辞典 松竹映画プロデューサー編
【バレる】 ばれる
少しドキっとする言葉かもしれないですが「バレる」とは「見えてはいけないものがカメラフレームの中にはいってしまう」ことを言う。モニターを注意深くスタッフがチェックしていても撮影時には気づかず編集時に窓の反射でバレてしまっていることも……!
お仕事道具見せてください
iPad
台本は全てデータ化してタブレットで持ち歩いています。手書きもできるため、データにも残り、一つにまとめていることで失くさないというメリットもあるそうです。
INFORMATION
\大庭さんがプロデューサーを務めた映画『あのコはだぁれ?』/