“科学のお姉さん”として、子供たちを中心に科学の魅力を伝える五十嵐美樹さん。唯一無二のサイエンスショーなどを通して、“科学に触れるきっかけを作る”活動をする、サイエンスエンターテイナーの五十嵐さんに迫ります。
五十嵐美樹
東京大学大学院修士課程修了。東京大学科学技術インタープリター養成プログラム修了。2020年春より東京大学大学院情報学環客員研究員。ジャパンGEMSセンター特任研究員。国際科学オリンピック応援団。環境省浮体式洋上風力発電広報アンバサダー。幼い頃に虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞後、自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子どもたちにむけて開催、講師を務める。科学館や小学校だけでなく、商業施設や地域のお祭り、お寺など幅広い場所でサイエンスショーを開催し科学の一端に子どもたちが触れるきっかけを創り続けている。NHK高校講座「化学基礎」レギュラー出演中、日刊工業新聞「機械設計」・アスキーキッズ「子どもと楽しむ3分科学」で連載中。
普段の活動について教えてください。
全国各地の商業施設やお祭り会場など、多様な場所で理科の実験による “サイエンスショー”を行っています。あとは本を執筆したり、テレビなどのメディアに出演したりもしていますが、全ての活動は、“科学に触れるきっかけを作る”ということを意識したものです。もともと私は、中学2年生の時に学校の授業で“虹の実験”を見て科学に興味を持ったんです。その“虹の実験”は、光の波長にまつわる実験で、最初に見た時は「ふ〜ん」という感じだったのですが、「これが虹の原理だよ」と先生が言った時に、急に私が知っているものと科学が紐づいた感覚がありました。そこからは急にやる気が出て、一生懸命勉強するようになり、成績も常に良かったです。ただ、それ以前はテストも全然ダメだったので、科学に興味がない子供の気持ちも分かるんです。だから、そういう子供たちに対してきっかけを作りたくて、多くの人が目にするであろう商業施設などで、サイエンスショーを行っています。
教えるということには興味があったのですか?
塾のアルバイトをしたり教える機会はあったのですが、まさか将来的に自分が教える立場になるとは考えていなかったですね。将来の仕事について考えた時には、科学者になるか、ずっとダンスをやっていたので、ダンサーになるかで悩んだんです。何なら科学者にもなりたいし、ダンサーにもなりたい。でもその2つを満たすことができる仕事なんてないと思っていた時に、サイエンスショーというものを思いついて。これなら自分がしたいことができるのではないかと思いました。私はもともと先生になりたいとは思ってはいなくて、今も教えるというよりかは、きっかけを作ることに注力しています。私がやっている活動は学校の授業とは違いますし、受験に直結するわけでもないです。ただ、本当に科学に興味がない子たちが、私のショーを体験して楽しかったなと思ってもらえることが一番大事だと思っています。
サイエンスショーなどで実践される実験内容はどのように考えるのですか?
まずは家でとにかく実験をしてみます。この割合だったらこんな感じかなというのを考えて、私自身もワクワクしながらやってみることが大事だと思っていますね。考えついた実験については、SDGsや環境問題など、社会的なテーマにハマるものがないかというのも考えます。ただ、内容が真面目すぎると商業施設などでは目立つことができないので、そこにダンスや音楽をどう紐づけていくかというのを考えて。実際にめちゃくちゃスベって帰ってくることもあるので、そこからまた改良してという繰り返しです。私が良いと思ったものでも子供にウケないことはあるので、そういった改良していくプロセスもすごく楽しいですね。
ショーを作る際に大切にしているポイントを教えてください。
何を伝えたいかということは大切にしています。ただ実験している様子を見せるということではなく、私はショーを通して何を伝えたくて何のためにやっているのかというのを、自分自身で掘り下げてプログラムを作っていますね。偶然出会った子供たちに少しでも楽しい時間を過ごしてもらいたい、科学に触れてもらいたいという思いでショーをやっているので、それが満たされれば私的にはゴールなんです。短い時間で原理のことを全て完璧に理解できなかったとしても、ショーを通して科学に触れた・探求した時間はすごく楽しかった、家に帰ってもう少し調べてみたいと思ってもらえたらと考えています。だからそのゴールをしっかりと自分の中で見据えて、それに対してどういうパフォーマンスをすればいいのかというのは常に頭に入れていますね。
ご自身の活動に対して、社会貢献という意識は持たれていますか?
その意識がないと続かないと思っています。日本は他国に比べて、理系の分野に進む女性の割合が少ないという現実があります。SDGsの中にも“ジェンダー平等を実現しよう”という項目がある通り、世界で言われていることだとは思うので、将来を担う子供たちにしっかりと向き合って社会に貢献できる活動をしたいという意識はありますね。それが社会貢献と言われるのかは10 年後くらいにわかるのかなとも思いますが、自分自身もそういった意識がないと、活動がブレてきてしまうと思っています。
2018年よりYouTubeチャンネル「ミキラボ・キッズ」を配信されていますが、このチャンネルを通して伝えていきたいことはどんなことですか?
YouTubeの動画に関しては、サイエンスショーと共通する点としない点があります。共通する点としては、無料で誰もが簡単に科学に触れることができるということ。逆にYouTube特有の点でいうと、サイエンスショーをきっかけに科学に興味を持ってくれた子が、さらに深いところまで無料で学べる場でありたいということを意識しています。だから、結構がっつり学校でやるような実験をやってみたり、学習指導要領に沿ってやっているんです。私は子供の時に塾に行くことができなかったりしたので、昔の自分が求めていたものという意識はありますね。意欲がある子は、誰でも平等に学べるような場になればいいなと思っています。
五十嵐さんのショーを見て科学に興味を持った子に対しては、どのような対応をされているのですか?
実際にショーが終わった時に質問責めに合うこともあるのですが、それは科学に興味を持ってくれたということなのでとても嬉しくて。ただ、私は子供たち自身に探求してほしいという気持ちがあるので、そこで答えを言わないようにはしています。例えば、質問をしてくれた子に「お家にあるこれとこれを混ぜたらどうなるか見てみよう」と提案をしたりするんです。そうすると後日、実際にその実験をやった写真が送られてきたりするんですよね。原理をそこで教えてしまえば簡単ですが、実際に自分の目で見ないとわからない部分はたくさんあるので、答えに行き着くまでの提案をするようにしています。
五十嵐さんが思う科学の魅力を教えてください。
私にとって科学は、好奇心の矛先のような存在だと思っています。先日ノーベル賞を受賞された真鍋淑郎さんが、「好奇心に基づいた研究が面白い」というお話をされていて、私も本当にその通りだと思いました。自分が疑問に思ったことを突き詰めて、何度も実験をして失敗をして、その中で法則のようなものに行き着く。そのプロセスが個人的には科学の魅力だと思っています。
高校生にメッセージをお願いします。
将来なりたいものを聞かれた時に、すぐに答えられる人も答えられない人もいると思います。今自分が知っている職業と自分ができることを照らし合わせて考えるだけではなく、自分が好きなものを実現できる職業を考え出すという方法もあります。それが今存在しない職業だとしても、求められる場所があるかもしれません。私は、自分が好きな科学とダンスを合わせて、今のお仕事をしています。だから、自分がやりたいことが職業としてない時に、それによって夢を諦めるということはしてほしくないです。
五十嵐美樹さんYouTubeチャンネル『ミキラボ・キッズ』
みき先生によるおもしろかわいい実験室は、日本だけでなく海外からの反響も多数! サイエンスショーやテレビでも実演される、さまざまな実験を見ることができます。
ミキラボ・キッズ:https://www.youtube.com/channel/UCDQc7iivx7a-FwXFzSoK45w
公式サイト:https://www.igarashimiki.com
Twitter:@igamiki0319